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紀北の旅 紀行文2006
紀北の一人旅
長坂 隆雄

尾鷲の竹林 何の予約もなく、無計画に訪れる旅こそ、第二の人生に相応しいものかもしれない。
 思い立って訪れた紀伊長島の駅前のタクシーに飛び乗る。さて、どこに行くのか。尋ねられても答えようがない。
 素朴な初老の運転手の人柄を信じ、一切を任せる事にした。
 長島城跡、大昌寺、熊野灘リクリエーション都市『孫太郎』等新旧名所を手際良く説明しながら、案内してくれた。
 鄙びた見所の少ない所かもしれない、と考えていた私の予想は完全に覆えり、特に『孫太郎』の広大なリゾートに驚く。自然と人工とが見事にマッチしたセンターであった。隣接の近代的なホテルでの宿泊を薦められたが、私は素朴な宿を希望した。運転手は迷わず秘湯の宿有久寺荘へ案内してくれた。一人では心細い様な山中にひっそりと立つ一軒家で、寺と温泉と宿が一体になった様な宿であった。渓谷ぞいの薄暗い浴室には、せせらぎの音が絶え間無く響き、神秘的な雰囲気に浸りながら旅の疲れを癒す事ができた。夕食はさすがに漁港をひかえ、新鮮な刺身、かますの塩焼き、さざえの壺焼き等を堪能した。
 翌朝、昨日の運転手の出迎えを受け、『熊野古道ツヅラト峠』へと向かう。登山口で下車、杉木立の曲がりくねった山道を進むと、峠の頂きから、彼方に紀州連山と熊野灘が見えた。ツヅラ折れの坂道や石畳を下り、約2時間で志子に到着した。国道42号線にそって南下、尾鷲の竹林を見学した。 
 今回の旅を通じて感じた事は紀北の町は、若者には若者向きの体験の場や、趣味を満喫させてくれる場があり、年配者には古代の歴史に思いを馳せる事の出来る場所がある。
 現在では数少ない温故知新の町、大自然への畏敬の念を新たにしてくれる町…それが紀北の町である事を痛感した。再び、充分な時間をもって家族友人と訪れたい町であり、私にとって忘れ難い町になった。

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