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紀北の旅 紀行文2005
紀北の旅・馬越峠
川村 均

馬越峠昼前なのに古道の石畳が露にぬれているかのように湿っていた。山中へ少し入っただけであるが、透明感のある空気がひんやりと頬を打つ。まだ葉の繁揃わぬ山中はほんのりと明るい。ここからさらに馬越峠をめざす。恐らく1時間もかからないだろう。「頑張ろう」の決意も新たに歩き始める。

古道を歩くテーマ旅を始めて5年、県外では木曽の馬籠、信越の塩の道に次いで3箇所目である。県内では日本武尊も通ったといわれる足柄古道、天下の剣の箱根旧街道などを歩いてきた。テーマ旅としているのは、歴史や由来などを下調べした上で、実際に古道を歩いて検証してみようという位置づけをしているからである。バスツアーで来て古道の入り口で写真を撮っただけで帰る旅はしたくなかった。

熊野古道は復活の道である。平安期から後鳥羽や後白河などの上皇が20回以上熊野詣でをしている。かつて、スサノヲ以外に小栗判官、神武天皇が復活を果たしているゆえ、我もという意味からの数の多さと理解するのが自然である。これにつられて公家が歩き、庶民も歩いた。そして今また私も歩く。

ここの石畳は一つ一つの石が箱根の石畳よりも大きい。その上を一歩一歩踏みしめて歩く。

坂道もかなり急なところがある。杉や桧の木立が揃っているところでは、少し暗くなるがその分空気がひんやりするので気持ちがいい。展望台まで一息に歩いてみようか。

桜の季節に行こうと言い出したのは妻であったが、その年は暖冬だったため4月の中旬なのに馬越公園の桜はほとんどが葉桜であった。
「残念!」

「こんにちは」峠を越えてすでに下りてくるグループもあった。峠への道はずっと坂道ゆえ、息が次第に荒くなる。じっくり、ゆっくりと歩を進める。杉木立のところで息を整えてはまた歩き出す。古道の坂道をこうして登るのが私は好きだ。

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