紀北の旅 作品集 紀北の旅 作品集 紀北の旅 作品集
紀北の旅 紀行文2005
「また来ようね」熊野の旅
小野 千惠

馬越峠 「よかったな、二人で来て。」夫が笑顔でつぶやいた一言が、なんだかすごく嬉しかった。
 「熊野古道世界文化遺産登録」新聞で見つけたこの書き出しに心をひかれ、夢中で記事を読んだ。「これはいかなくちゃ。」早速バスツアーに申し込み、バス嫌いで一緒に行くのを渋る夫を誘って参加した旅が、私と夫の熊野古道との最初の出逢いである。
 すっと天まで伸びる木立の間を縫うようにツヅラト峠を行く。「オーイ熊野灘が見えるぞー」先の方で声がした。はやる気持を抑えきれずかけ上がっると視界がパッと開け、真青な海が広がった。海を見ながらの一休み。熊野三山に詣でた先人達も同じ道を歩き、この景色を眺めたかと思うと、とても新鮮な感動を覚えた。
 細い山道を降りた所で地元の人達に暖たかく向かえてもらった。汗をかいたあとの干物のつまみで飲んだビールの味、はじめて食べたあおさ汁、「うまい!」最高、この感激が忘れられず後日馬越峠へも足を運んだ。ツヅラト峠とは、また一味違う、大きな石畳、雨上り、ぬれてしっとりと光っている、一歩一歩踏みしめた。
 心に刻まれた美しい古道を油絵にした。熊野古道が私に、夫との旅、山歩き、それを絵にすること、人とのつながり、いくつもの『楽しい事』を与えてくれた。
 我が家の玄関に飾ってある『雨後の古道』へたな絵にもかかわらず訪ずれる人達が、「あ、熊野古道だね」と言ってくれる。私も行ってきたよと言う人、一度行きたいと言う者、会話がはずむ、これも熊野の神様のお導きかも、まだまだ行ってみたい峠もいくつか、紀北の旅は、始まったばかり、夫と二人紀北の暖たかさにふれに行きたいと今日もパンフレットを開く、心はもう旅に出ている。

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