古道というのは不思議なもので、時空を結ぶ道でもある。
旅の空で知り合った仲間と、熊野古道を旅した。最初に訪れたのが馬越峠だった。ガイドブックに「伊勢路一、古道の風情が漂う」と紹介されている。約二キロにわたって続く石畳は江戸時代、徳川吉宗によって造られたものだそうだ。
「尾鷲」といえば気象情報でよく登場する降雨量の多い土地。旅人の足がぬかるまないようにという配慮からだそうだが、おりしも前日の雨で土の道はぬかるんでいた。
徳川吉宗のおかげで今も快適にこの道を歩くことができるのだな、と思うと感動せずにはいられない。
上ること小一時間、馬越峠到着。今も昔も旅の空の下の食事は格別だ。昔はなかっただろうベンチに腰をかけ、名物のさんま寿司をほおばる。峠では他の人も一様に食事休憩をしていたが、どの顔も笑顔だ。
上りは湿気がじとじと体にまとわりついていたが、下りは檜林をぬってさわやかな風がふいていた。
訳もなくこうして元気に歩いている自分を幸せだな、と思う。しかし気を抜いて石畳で滑り転んでしまった。昔の人は藁草履で旅をしたのだろうか。ゴム底靴よりは滑らなかったのかな?
過去から現在まで、多くの人が行き交った道。旅の有り様は変わっても、旅心はかわらない。人と出会い、風景と出会い、いつもと違った自分と出会う。
台風や地震と、災害続きだった二〇〇四年。どうかこの道が、遠い未来までつながっていてほしいと思う旅だった。
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