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紀北の旅 紀行文2004
熊野古道と紺碧の海
櫻井 俊甫

紀伊長島の海 初夏に紀伊半島の屋根と言われる大台ヶ原の、日出ヶ岳約千七百メートルに登頂した。南東方向眼下に、紺碧の熊野灘に面した美しい、リアス式海岸の里が望見された。
 その後、JR紀勢本線で尋ねると、そこは三重県紀北地域であり、北から紀伊長島町、海山町、尾鷲市であった。
 紀伊長島駅手前でトンネルを出ると、車窓には詩情あふれる一面の海が広がり、爽やかな潮風を感じる心地好い体を、磯の香りが優しく包んで、リフレッシュしてくれた。
 地域には「紀伊山地の霊場と参詣道」として、世界遺産に登録された熊野古道の伊勢路が、熊野三山へと続いていた。
 杉・ヒノキ林の中、歴史とロマンあふれる苔むした石畳の古道は、平安の昔から千年以上の長い歳月を重ねて、現代の私たちに何かを語りかけてくれるし、霜降る馬越峠、夜泣き地蔵あたりでは、何故か身を清められる心の旅路となっていた。
 旅情を奏でつつ山から海へ、海から山へと続く車窓には、黄色い甘夏みかんが太陽の光をいっぱい受けてたわわに実り、船津川などの清流が静かに心を癒してくれた。
 複雑に変化に富む海岸からの、夢見るような浮かぶ島影の景観は、正に「紀伊の松島」であり、次々と旅を感動させてくれた。
 こんな海に心が騒ぎ、古老に聞けばこの辺りは磯釣の銀座で、グレ・ベラ・石ダイの宝庫であり、暖流黒潮の流れる沖に出れば、四季折々に、ツバス・カツオ・シイラ等の豪快な釣りが、心ゆくまで堪能できると言う。
 漁業基地尾鷲湾の夕日は赤々と水平線の彼方に沈み、ほどなく漁火が遠く近くに揺れ、街は海の演歌歌手鳥羽一郎の世界となった。 この豊かな自然と、人情ことのほか厚い紀北に今度は、友を誘って出かけたい。

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